介護を理由に仕事を辞める人は年間約10万人。政府が打ち出した「介護離職ゼロ」にはほど遠い状況です。介護を必要とする人が増える一方、未婚率の上昇や共働き世帯の増加など家族のあり方は変わり、家族が介護する力は下がっています。仕事と介護の両立を支援する動きはあるものの、働く介護者の視点に立ったサポートが十分とは言えません。
自分の負担減らす相談 「ケアマネにしていいのか分からなかった」
愛知県で広告会社を経営する男性(47)は、夕方に職場で携帯電話を見た。着信が何件も入っていた。アルツハイマー型認知症と診断された母(81)からだった。かけ直すと、昼夜の感覚が逆転して混乱していたのか、「まだ朝なのに何でいないの?」という訴えが続いた。
母が1人でいて不安になると何度も電話してくるのは、よくあることだった。
母は2017年に認知症と診断された。10年前に父が亡くなってから母と2人暮らしだった男性が介護を担うようになった。
母は当初、要介護1だった。宅配弁当を「まずい」と嫌がり、ヘルパーに週4、5回食事をつくってもらうようになった。加えてデイサービス、デイケアと訪問看護を週に何回か使うと、1割負担の利用限度額に達した。介護が長く続くことを考え、限度額を超えるサービス利用は控えた。
男性は自身を含めて社員7人の広告会社で営業や経理などを1人で担当。母が元気な頃は毎日ほぼ午後10時ごろまで働き、仕事を回していた。
だが、診断から数カ月後には母を長時間1人にできなくなった。週に3回は午後7時には帰り、家事や話し相手をするようになった。通院の付き添いで仕事を抜けることも増えた。取引先の不況を受けた会社の業績悪化も重なり、「仕事をしたくてもできず、もどかしく、社員に申し訳なかった。会社をたたもうと思ったこともあった」。夜中に起きて家の中を歩き回る母の見守りで疲れがたまり、精神的にも追い詰められた。
ケアマネジャーに相談して、要介護認定を再び申請した。要介護2になって限度額が上がり、デイサービスを増やした。だが、1年半ほどで在宅介護に限界を感じ、母は昨年10月にグループホームに入った。
コロナ禍で今年は母との面会も…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル